『あぶないオルカン』(宝島社新書)を読みました。
オルカンホルダーとして、気になるタイトルでしたので、読んでみました。その結果、私の場合は「オルカンをやめよう」とは思いませんでした。
「思考停止」で買うのは「あぶない」
全世界株式インデックスは、低コストで世界中に分散でき、制度上の後押しもある。この構造自体を本書は否定していません。いくつかの問題点が挙げられていますが、その一つは、商品選択の意思決定です。
著者の言い方を借りると、こうなります。
「ただ、結果がどうなるかにかかわらず、リスク商品への投資には正しいアプローチで臨みたいものです。まずは投資対象の投信を自らの判断で主体的に選ぶことが出発点ではないかと感じます。」(p.33)
「結果がどうなるかにかかわらず」というのがポイントで、成績の予想合戦をしているわけではない。自分で選んだかどうかを出発点に置いています。
なので、読者によって刺さり方がはっきり分かれると思います。
- 刺さる人:勧められて何となく始めた/中身の構成比を知らない/なぜオルカンなのか説明できない
- 刺さらない人:他の選択肢と比べたうえでオルカンに決めた人
私自身は後者に近いので、「胸にグサッと刺さった」という読後感ではありませんでした。ただ、自分の判断を一度外から点検するきっかけとしてはありだと思います。
「応援する企業にお金を活用してもらう」という投資観
また本書で個人的に引っかかった(いい意味で)のが、投資をリターンの獲得手段だけで捉えていない点です。オルカンとS&P500インデックスという2本の投信を比べるくだりで、こう書かれています。
「リターンは結果であり、投資とは自分のお金を応援する企業に有効に活用してもらうことだと考えている人にとっては、2つの投信は大違いなのです。」(p.48)
リターンが同じなら中身は何でもいい、とは考えない人は多いと思います。
この整理はわりと本質的だと思います。オルカンを買うということは、実質的に「どの企業にお金を託すかの判断を、全部他人に任せる」ことでもあるからです。
もちろん、これは効率性とはまったく別の軸の話です。合理性だけで考えればインデックスに軍配が上がる場面は多い。ただ、投資を10年20年続ける動機として「応援」がある人も一定数いるのだと思います。
売る側・運用する側の視点
そして、ここは本書の、他の本では指摘されにくい部分だと思います。
オルカンをめぐる話は、普通は投資家目線だけで語られます。信託報酬が安い、分散が効いている、と。
でも本書は、販売会社・受託会社・運用会社という「裏方」の側からも景色を描いています。
「個人マネーがオルカンなど手数料が格段に低いインデックス投信に奪われ、資産運用業界全体の収益が減少し、資産運用立国の担い手がいなくなってしまうリスクも指摘されています。」(p.179)
投資家にとっての善(コストが安い)が、業界にとってはそのまま収益の消失になる。この非対称は、投資家側からはまず見えません。あの低コストは誰の何によって成立しているのか——その裏側が書かれていたのは発見でした。
著者の前田昌孝氏は、日本経済新聞で証券部編集委員などを務め、2022年に独立したベテラン記者です。
市場の制度や業界構造を長年取材してきた人なので、この視点は本書の持ち味の一つだと感じました。
まとめ:誰に勧めるか
タイトルに反して、オルカン積立をやめさせる本ではありません。「あなたはなぜオルカンを選んだのか」を一度言語化させる本です。
私自身の結論は変わりませんでした。コアはオルカン。ただし「思考停止で持っている」わけではない、と自分で説明できるかどうか。そこだけは定期的に確認しておきたいところです。

