投資の教養『バブルの物語』レビュー|なぜ投資家は何度も同じ熱狂を繰り返すのか

ジョン・ケネス・ガルブレイスの『バブルの物語』は、チューリップ・バブルから1929年の世界恐慌、日本のバブル経済まで、金融市場で繰り返されてきた熱狂と崩壊を解説した一冊です。

原題は「A Short History of Financial Euphoria」。直訳すると「金融熱狂の短い歴史」といった意味になります。

ページ数はそれほど多くありませんが、ガルブレイスの鋭い言葉を通して、バブルが発生する本質的な原因を学ぶことができます。

本書の結論は非常にシンプルです。

金融商品や制度が変わっても、バブルを生み出す人間の心理は変わらない。

今回は『バブルの物語』から、現代の投資家にも役立つ5つの教訓を紹介します。

バブルの原因は人間の本性にある

バブルが崩壊すると、金融政策、金利、規制、金融機関などが原因として挙げられます。

もちろん、それらがバブルを膨らませることはあります。

しかしガルブレイスは、バブルの根本的な原因は市場の外側ではなく、そこに参加する人間の内側にあると考えました。

人間には、値上がりしている資産へ集まり、儲けている人を賢いと信じ、「今回は過去とは違う」と考えてしまう性質があります。

この心理が変わらない限り、バブルは対象を変えながら何度でも繰り返されます。

1.金融の記憶は約20年で失われる

ガルブレイスは、金融に関する記憶は極端に短いと指摘しています。

大きな暴落が起きても、その記憶はやがて薄れていきます。

暴落を経験した世代が市場の第一線から退き、過去の損失を知らない新しい世代が投資を始めるからです。

およそ20年ほど経過すると、過去と似た投資ブームが「新しい金融革命」として登場します。

2000年前後のITバブルを実際に経験していない投資家にとって、現在のAIブームや半導体ブームは、過去の繰り返しではなく、まったく新しい出来事に見えるかもしれません。

しかし、技術や銘柄が変わっても、期待が価格を押し上げる構造は共通しています。

2.人は富と知性を取り違える

相場の上昇によって大きな資産を築いた人を見ると、私たちはその人物を「投資の天才」だと考えがちです。

資産が多いのは、頭がよく、未来を見通す能力があるからだと信じてしまいます。

しかし、その利益が本人の実力によるものなのか、単に上昇相場へ乗った結果なのかは、相場が反転するまで分かりません。

バブルの最中には、儲けた金額そのものが発言の正しさを証明する材料になります。

大きな含み益を持つ人の発言には注目が集まり、慎重な意見は無視されます。

ところが相場が崩れると、それまで天才と呼ばれていた投資家の資産が急速に失われることがあります。

資産額の大きさと、投資判断の正しさを同じものとして考えないことが重要です。

3.金融の新発明は、レバレッジの再発見である

金融市場では、新しい金融商品や投資手法が次々と登場します。

しかしガルブレイスは、金融の世界で画期的とされる発明の多くは、従来の仕組みを少し変えただけだと指摘します。

その中心にあるのが、借金を利用して投資額を増やすレバレッジです。

レバレッジを使えば、資産価格が上昇したときの利益を大きくできます。

一方で、相場が下落すれば、損失も同じように拡大します。

1720年のイギリスで起きた南海バブルでは、南海会社の株価が半年ほどで約8倍に上昇しました。

その背景にも、借金や信用を利用して株を購入する仕組みがありました。

現代でも、信用取引、レバレッジ型ETF、オプション取引、企業の借入金など、さまざまな形でレバレッジが使われています。

名称や仕組みが新しく見えても、上昇時の利益と下落時の損失を増幅する性質は変わりません。

4.価格上昇が新たな価格上昇を生む

バブルには、価格上昇が買い手を呼び、その買い手がさらに価格を上昇させる自己強化の仕組みがあります。

最初は企業の成長や技術革新といった理由で株価が上がります。

しかし上昇が続くと、次第に「上がっているから買う」という投資家が増えていきます。

新しい買い手が入ることで株価は本当に上昇し、その上昇がさらに多くの投資家を呼び込みます。

現在では、SNSで急騰銘柄や大きな利益が拡散されるため、この自己強化が短期間で進みやすくなっています。

周囲が簡単に儲けているように見えると、「自分だけ取り残されたくない」というFOMOが生まれます。

企業価値を調べて買うのではなく、上昇しているという事実だけを理由に飛びつく人が増えたとき、相場は危険な段階に近づいている可能性があります。

5.バブルを疑う人は嫌われる

相場が上昇しているとき、慎重な意見は歓迎されません。

「この株価は高すぎるのではないか」「バブルの可能性がある」と発言すると、時代遅れ、勉強不足、上昇相場に乗れなかった負け惜しみだと批判されます。

1920年代、著名な銀行家ポール・ウォーバーグが株式市場の過熱に警告を発すると、それまで尊敬されていた人物でありながら、激しい非難を浴びました。

アメリカの繁栄に水を差しているとまで批判されたといいます。

熱狂が強くなるほど、強気な人が正しく、慎重な人が間違っているように扱われます。

その結果、専門家や経営者も警告を発しにくくなり、市場から慎重な意見が消えていきます。

誰もが同じ方向を向き、反対意見が嘲笑される状態は、バブルを見分ける一つの材料になります。

バブル崩壊後には犯人探しが始まる

バブルが崩壊すると、投資家は損失の原因を探します。

中央銀行が利上げしたから、政府が規制を強化したから、景気が悪化したからと、外部に原因を求めます。

しかしガルブレイスは、投機に参加した市場参加者自身の熱狂が原因として語られることは少ないと指摘します。

人々は、市場は本質的に正しいと信じています。

そのため、市場そのものが集団心理によって暴走したという事実を認めたがりません。

市場を無罪にするために、中央銀行、政府、金融機関など、別の犯人が必要になるのです。

自分たちが価格上昇を信じ、熱狂に参加した事実から目をそらすため、次の世代も同じ失敗を繰り返します。

AIブームはバブルなのか?

AIが社会や産業を大きく変える可能性は十分にあります。

しかし、技術が本物であることと、その関連株の価格が適正であることは別問題です。

過去のITバブルでも、インターネットが世界を変えるという予想自体は正しかったといえます。

それでも、多くのインターネット関連株は過大な期待によって買われ、バブル崩壊後に大きく下落しました。

現在のAI市場を見るときも、次の点を確認する必要があります。

  • 過去のバブルの記憶が薄れていないか
  • 成功した投資家や経営者を過度に神格化していないか
  • 借入金や信用取引によるレバレッジが増えていないか
  • 株価上昇そのものが新しい買いを呼んでいないか
  • 慎重な意見が嘲笑される空気になっていないか

ただし、これらの条件に当てはまるからといって、すぐに暴落するわけではありません。

バブルは、割高だと指摘されてから何年も上昇を続けることがあります。

ガルブレイスも、バブルがいつ崩壊するかを予測できるとは述べていません。

『バブルの物語』から学べる投資の教訓

本書には、暴落の時期を当てる方法や、必ず儲かる投資手法は書かれていません。

ガルブレイスが求めているのは、自分自身の中に懐疑心を持つことです。

市場が上昇しているからといって、すべてを売却する必要はありません。

しかし、周囲の利益を見て急に投資額を増やしたり、借金をしてまで人気資産へ集中投資したりする前には、一度立ち止まる必要があります。

特に注意したいのは、次のような状況です。

  • 誰もが絶対に値上がりすると考えている
  • 投資家の成功体験と自信が急速に膨らんでいる
  • 借金やレバレッジを使った投資が増えている
  • 慎重な意見を口にしにくい空気がある

バブルを完全に避けることは難しくても、その熱狂に飲み込まれないようにすることはできます。

まとめ

『バブルの物語』は、金融市場で熱狂と暴落が繰り返される理由を、人間心理の視点から解説した投資の古典です。

本書から学べる重要なポイントは、次の5つです。

  1. 金融の記憶は短く、過去の失敗は忘れられる
  2. 人は富と知性を取り違える
  3. 金融の新発明の多くはレバレッジの再発見である
  4. 価格上昇が新しい買い手を呼ぶ
  5. バブルを疑う人は嫌われる

バブルの対象は、チューリップ、土地、鉄道、インターネット、住宅、AIと変化してきました。

しかし、それを買う人間の心理は、数百年前からほとんど変わっていません。

誰もが上昇を確信しているときほど、一度立ち止まって考える。

それが『バブルの物語』から現代の投資家が学ぶべき、最も重要な教訓です。