投資で最も大切なことは「変化」と「想像力」
投資で成功するために最も重要なのは、変化に気づき、それを想像力で読み解く力です。
本書の冒頭では、個人投資家・片山晃氏が「変化と想像力」を投資の本質と位置づけています。
例えばiPhoneの登場を「一過性の流行」か「構造変化の始まり」か、どちらと見なすかで投資判断は大きく変わります。
情報過多の現代では、自分の興味ある情報しか目に入らない傾向があります。だからこそ、新聞や業界誌など「自分では選ばない情報源」にも目を通し、観測範囲を意識的に広げる必要があるのです。変化に気づくには“浅く広く”が鉄則だと説いています。
想像力は「事実の蓄積」から生まれる
想像力は生まれ持った才能ではなく、過去の事実をどれだけ知っているかで決まると言われています。
片山氏は「事実を知ることで想像力が生まれる」と語ります。代表例が2005年のジェイコム誤発注事件です。
証券会社の誤注文で株価が暴落し、冷静に対処した一部の投資家が巨額の利益を得ました。
当時、同様の誤発注の事例を知っていた投資家は即座に反応しチャンスを掴めた一方で、知識がなかった人は何もできませんでした。つまり、知っているか否かでチャンスを活かせるかが決まります。このように、想像力は知識の土台の上に成り立つのです。
「人の行く裏に道あり」インスタント志向時代だからこそ長期投資の価値が高まる
短期で儲けたい投資家が増えた今こそ、中長期のどっしりとした投資に妙味があります。
SNSや動画で情報が即座に手に入る今、投資家の多くが「すぐに上がる株」に注目しがちです。片山氏は、こうした“インスタント志向”が加速している今だからこそ、他者と違う時間軸で動く長期投資の価値が際立つと述べています。
8年前は、決算を読む個人投資家が少なく、小型株に妙味がありました。
現在ではそのような手法が一般化し、逆に中長期投資こそが“裏道”として有効になってきたという視点は示唆に富んでいます。
プロが銘柄を選ぶ視点とは?ファンドマネージャーの実践術
一流のファンドマネージャーは、定量情報だけでなく定性情報も重視します。
小松原氏は、銘柄選定の鍵として「社長の人格・企業文化・ビジネスモデル」などを挙げています。日々のニュースや業界専門サイトを横断的にチェックし、生活の中からアイデアを拾う姿勢は、個人投資家にも参考になる視点です。
また「メガトレンドとその中のミクロトレンドを捉えること」が重要であり、生成AIなどの新しい潮流を見極める目も求められます。
社長のカリスマ性や合理性も投資判断に影響を与えるため、人物眼も磨くべきだと強調されています。
8年で株価5倍!“負けない投資”を体現した信越化学工業の実例
地道な競争力強化と着実な成長が“負けない投資”を実現させます。
本書では、小松原氏がかねてより注目していた信越化学工業のケースが紹介されています。同社は塩ビ樹脂や半導体素材の販売で競争力を高め、営業利益を8年で約5倍、営業利益率も2倍以上に伸ばしました。
会計期間 | 営業利益 | 営業利益率 |
---|---|---|
2015年3月期 | 1853億円 | 14.8% |
2023年3月期 | 9982億円 | 35.5% |
革新的な製品や大規模な買収があったわけではなく、シンプルに既存事業の強化を重ねただけ。
それでも株価は約5倍に成長しました。これはまさに「負けない投資」の本質──すなわち、堅実な成長企業に長期的に賭ける戦略──の成功例といえるでしょう。
初心者から中級者まで学び多き、現代投資の優良ガイド
『完全改訂版 負けない投資』は、知識の浅い初心者でも読みやすく、それでいて中級者・上級者にも学びがある構成となっています。
過去8年の市場の変化や個人投資家の成熟に合わせて、改定前よりも長期投資の視点や思考法がアップデートされた点も本書の魅力です。
特に、読者の思考を鍛える「変化に気づく力」「想像力」「社長を見る眼」などの非数値的アプローチは、数多くの投資本にはない価値を提供してくれます。
投資における“変わるべきもの”と“変わらぬ本質”を見極めたい方にこそ、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。