ジョン・ケネス・ガルブレイスの『大暴落1929』は、1929年のウォール街大暴落を扱った投資の古典です。
初版の刊行は1955年ですが、現在でも1929年の世界恐慌や株式バブルを学ぶ代表的な本として読み継がれています。
本書が描いているのは、単なる株価暴落の歴史ではありません。
なぜ人々はバブルに熱狂したのか。なぜ警告を無視したのか。そして、信用取引や投資信託のレバレッジが、暴落をどのように増幅したのか。
現代の投資家にも役立つ内容を簡潔に紹介します。
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1929年の大暴落はなぜ起きたのか
1920年代のアメリカでは、経済成長と株価上昇への期待が広がっていました。
株を買えば儲かるという空気が強まり、投資家は企業の利益や株価の割高さよりも、「さらに高く買う人が現れるか」を重視するようになります。
こうした投機熱に、金融緩和や信用取引による資金が加わり、株式バブルが膨らみました。
ガルブレイスは、FRBの金融政策だけを暴落の原因とは考えていません。
金融緩和はバブルを膨らませるガソリンになったとしても、火をつけたのは人々の儲け話を信じたい心理だったと考えます。
フロリダ土地バブルに見る投資家心理
本書は、1929年の株式バブルに先立って発生したフロリダの土地バブルも紹介しています。
「フロリダはアメリカを代表する観光地になる」という期待から土地価格が上昇し、多くの人が転売目的で土地を購入しました。
手付金は価格の1割程度でよく、実質的に大きなレバレッジをかけることもできました。
実際には海岸から遠い土地まで「海沿い」として販売されるなど、問題のある取引も横行しました。
それでも投資家は疑う材料ではなく、値上がりを信じるための理由を探しました。
これは現在のバブルや投資詐欺にも共通する心理です。
当時のハイテク株RCAは98%下落
1920年代を代表する人気株が、ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ、通称RCAでした。
当時のラジオは、人々の生活を変える最先端技術です。現在のAI関連企業に近い期待を集めていたと考えると分かりやすいでしょう。
しかしRCA株は1929年の高値から、1932年までに約98%下落しました。
その後、会社はテレビの実用化などを進め、技術自体は世界を変えていきます。
それでも、高値付近で株を買った投資家が元の価格を回復するまでには、約35年かかったとされています。
ここから分かるのは、次の重要な違いです。
優れた技術や成長企業であることと、その株をどの価格で買っても儲かることは別問題です。
AIが将来世界を変えるとしても、すでに期待が株価へ織り込まれすぎていれば、投資家が利益を得られるとは限りません。
世界恐慌を増幅した投資信託
『大暴落1929』の重要なテーマが、当時急拡大した投資信託です。
ただし、現在NISAで購入されているインデックスファンドとは、仕組みが大きく異なります。
当時の投資信託は、保有する株式の価値よりも高い価格で売買されることがありました。
中身の株式が100ドルの価値しかなくても、投資信託自体は150ドルで取引されるような状態です。
差額の50ドルは、運用する金融の専門家への期待でした。
投資家は「金融のプロなら、一般人が知らない特別な情報を持っている」と考え、純資産を上回る価格でも購入しました。
多重レバレッジの危険性
当時の投資信託は、普通株だけでなく、社債や優先株を発行して資金を集めていました。
借金を使って株式へ投資するため、相場が上昇すれば普通株主の利益は大きくなります。
しかし、相場が下落すると、最初に債権者や優先株主への支払いが優先されます。資産が残っていても、普通株主の価値はゼロになる可能性がありました。
さらに、親会社が子会社へ投資し、子会社が別の投資会社へ投資する多層構造も作られていました。
それぞれの会社がレバレッジを使っていたため、株価上昇時には利益が何倍にも増幅されます。
しかし暴落時には、同じ仕組みが損失を何倍にも膨らませました。
現在でも、信用取引、レバレッジ型ETF、複雑な金融商品を利用するときには、上昇時の利益だけでなく、下落時の損失拡大を考える必要があります。
1929年の暴落は一日で起きたわけではない
1929年の大暴落は、ある日突然すべてが崩れたわけではありません。
ダウ平均は1929年9月3日に最高値をつけましたが、その後も新しい株式や投資商品は発行され続けました。
市場が天井をつけた後も、多くの投資家は上昇相場が続くと考えていたのです。
10月に入ると株価の下落が大きくなり、10月24日の「暗黒の木曜日」、10月29日の「暗黒の火曜日」へと進みます。
追証を支払えない投資家の株が強制的に売却され、信用取引とレバレッジ型の投資信託が暴落を加速させました。
ダウ平均が1929年の高値を回復したのは、約25年後です。
株価暴落が世界恐慌になった5つの原因
ガルブレイスは、株価暴落と世界恐慌は別の現象だと説明しています。
株価暴落は引き金でしたが、恐慌を深刻化させたのは、当時の経済が抱えていた次の5つの弱点です。
1.所得格差
所得上位5%が、個人所得全体の約3分の1を保有していました。
富裕層の投資やぜいたく品への支出は変動が大きく、暴落後に急減しました。
2.企業のレバレッジ
持株会社や投資信託に組み込まれた借金が逆回転し、配当や設備投資が減少しました。
3.銀行制度の弱さ
小規模で脆弱な銀行が多く、一行の破綻が取り付け騒ぎを通じて他行へ広がりました。
4.国際収支の問題
アメリカは債権国でありながら高関税を維持し、海外の債務国が返済資金を稼ぐことを難しくしていました。
5.経済政策の誤り
不況下でも均衡予算や金本位制を重視し、十分な財政支出や景気対策が行われませんでした。
こうした弱点が重なったことで、株価暴落が長期的な世界恐慌へ発展しました。
好況期に不正が増える「ベズル」とは
本書には、ガルブレイスが提唱した「ベズル」という概念が登場します。
好景気の間は、横領、粉飾決算、無理な事業計画などが発覚しにくくなります。
株価や資産価格が上昇し、資金調達も続くため、問題を隠しやすいからです。
しかし相場が下落すると、隠されていた不正や損失が一気に表面化します。
バブル崩壊後に不正が増えるのではありません。
好況期に蓄積していた問題が、暴落によって発見されるのです。
現代の投資家が学ぶべき教訓
1929年と現在では、金融制度や規制が大きく異なります。
預金保険制度があり、中央銀行や政府も金融危機への対応経験を積んでいます。そのため、当時と同じ世界恐慌がそのまま再現されるとは限りません。
それでも、人間の心理には共通点があります。
- 値上がりしているものに人が集まる
- 有名人や専門家の名前を信用してしまう
- 上昇相場ではリスクを軽視する
- 暴落後に初めてレバレッジの危険性に気づく
投資家ができるのは、暴落の日時を正確に当てることではありません。
重要なのは、予想外の下落が起きても市場から退場しない資産配分と資金管理を行うことです。
まとめ
『大暴落1929』は、1929年の株価暴落と世界恐慌の原因を学べる投資の古典です。
特に重要なのは、投資信託と信用取引によるレバレッジが、相場の上昇だけでなく暴落も増幅した点です。
また、RCAの事例は、将来有望な技術であっても、高すぎる価格で株を買えば長期間報われない可能性を示しています。
市場制度や投資対象は変化しても、儲け話を信じたい人間の心理は変わりません。
未来を当てることよりも、暴落が起きても生き残ること。
これが『大暴落1929』から現代の投資家が学ぶべき、最大の教訓です。
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