本書は、宇根尚秀氏(東大院→ゴールドマン・サックスのデリバティブ部門でアジア統括、200兆円機関投資で戦略牽引)が、個人投資家向けに、合理的なお金の増やし方をまとめた一冊です。
前半はインデックス投資やアセットアロケーションの基礎、後半は個別株や債券・不動産・オルタナティブまで視野を広げます。初心者が基礎を固めつつ、中級者がオルカンやS&P500投資の「次の一手」を広く浅く模索することができる。
オルカンかS&P500か:リターンとリスクのバランス
過去10年の単純なリターンではS&P500が全世界株(MSCI ACWI)を上回りましたが、長期変動率(標準偏差)ではS&P500が大きく、ボラティリティへの耐性が問われています。
S&P500指数 | MSCI全世界株指数 | |
円建て年率リターン(過去10年間) | 15.14% | 11.21% |
長期変動率 (500日年率標準偏差) | 18.20% | 14.60% |
投資効率(シャープレシオ) | 0.80 | 0.73 |
シャープレシオ(リスク当たりの効率)は僅差でS&P優位でも、オルカンを1とした場合の変動率は、S&Pが約1.3倍もあります。
直近で強かった資産はその後の相対劣後も起こり得るため、本書では「どちらかというと、今後はS&P500よりもオルカンへの投資のほうがいいと私は思ってます。」と書かれています。
確かに、堅実さを重視するならオルカン選好は合理的といえるでしょう。
とはいえ、明確な信念を持つ人はS&P500集中もあり得ると思います。
「固執しない」投資法:一本足打法を避ける
著者は、バリュー・グロース・高配当など単一手法に固執しない姿勢を明言します。
これには深く共感します。多くの投資本を読んできましたが、その多くは特定の手法を推奨しています。例えば「高配当株で月〇〇万円!」「小型グロース株投資で〇〇億円!」のような感じです。
もちろん、どの投資手法でもエッジを活かし勝つことが可能で、著者がその手法を得意としているのは事実ですし、性格などにより、向き不向きもあると思います。
その上で、私は、本書の「特定の手法に固執しない」スタイルに共感します。バリュー、グロース、高配当、小型株など、さまざまなスタイルはありますが、武器として複数の武器を持ちつつ、その時の外部環境に合わせて、最も勝ちやすいと感じるスタイルで戦えばいいと思うからです。
本書では、既存のシグナル/ファクター(定量的な勝ち筋の傾向)を組み合わせて銘柄候補を作り、地道に研究するのが近道だと言われています。
理想は20〜30個の投資アイデアを常備し、完璧を求めず“数を打つ”ことだと言われています。
有望株を見つける3ポイント
- ビジネスモデル
- 広義のバリュー
- カタリスト
第1にビジネスモデルの優位性と伸びしろを確認。スイッチングコストやネットワーク効果など経済的堀(参入障壁)を点検します。
第2に「広義のバリュー」=単純なPER/PBRの低さだけでなく、成長性や資本効率を織り込んだ価値評価を行うこと。
第3にカタリスト(株価のきっかけ)です。
再編、規制変更、新製品など“割安に市場が気づく瞬間”が見込めないと、割安のまま据え置かれるバリュートラップに陥ります。これら三点をチェックすることで勝率を高めます。
PERを「定数」とみなす思考法:業績ドリブンに徹する
著者は投資判断でPER(株価収益率)をあえて“ほぼ定数”と捉える考え方をしています。
価格=EPS×PERのうち、PER変動を当てにせず、業績(EPS)にフォーカスをあてるという発想です。
これにより「いつか見直されるはず」という期待先行を避け、実力成長に裏付けられた株価上昇を狙えます。
特に“PERが低いから上がる”という安易な仮説を排し、業績予測、ビジネス的な優位性を点検する癖が身につきます。
結果としてバリュートラップ回避に有効です。
初心者の土台づくりから中級者の“次”まで
表紙の派手そうなイメージとは裏腹に、中身は誠実で真面目な内容でした。
勝ち筋は地味な調査の積み重ねにあります。
魔法のようなショートカットはなく、やるべきことを正確に繰り返す人が最後に勝つ、ということなのでしょうね。
本書は、インデックス中心で基礎を固めつつ、個別株や他アセットへの道筋を示します。派手さはありませんが、思考力を身につける本だと思います。