ゾーン「勝つ」相場心理学入門

名著の一冊を詳細にご紹介していきます。

第1章:成功への扉:ファンダメンタル分析か、テクニカル分析か、心理分析か

ファンダメンタル分析は、特定の商品、株式についての需給の均衡に関わる材料(金利、バランスシート、天候パターン、その他色々)を全て考慮しようとするもので、数理モデルを利用する。

しかし、実際に価格を動かすのはモデルではなく、人間なのである。

例えモデルが完璧に計算したとしても、すべての投資家がその結果に気づいているわけではないし、知っていたとしても信じない場合があるため、その通りに行動しない。

つまり、トレードをする人たち(そしてその結果的にその動き)は、必ずしも論理的に動くわけではないのだ。

一方のテクニカル分析は、集団的行動パターンを識別し、「あることが起これば次にこうなる」という可能性が高くなるタイミングを明確にする方法である。

過去にマーケットで生じた何かしらのパターンを根拠にマーケットの気持ちを読み取り、次の展開を予想する方法であると言える。

ただし、そのテクニカル分析をもってしても、それほどの収益を上げられないトレーダーが大半だ。

そこには、心理的ギャップが存在すると言われている。

何かがマーケットで起こるかもしれないという予測(そして稼げるかもしれない金額についての思惑)と、実際のトレードの建玉と仕切りという現実との間には、このように大きな格差がある。私はこの格差を「心理的ギャップ」と呼んでいる。

儲かりそう、と気づくのと、実際に行動して儲けられるのとは、大きな違いですよね。

アプリなどのデモトレードで勝つのと、実際に身銭を切ってトレードするのとの違いとも言えるのではないでしょうか。

一貫性の扉

一貫した成功者とその他を区別するはっきりとした特徴がある。勝者はある種の心構え(独自の姿勢)を確立し、逆境にも関わらず規律と集中力、そして何よりも自信を維持できるのだ。

そう、つまり、成功したトレーダーは常に一貫した心理状態を持っているということが書かれている。

その一貫性についての詳細は、第4章にあるので、ここでは軽く触れるが、この「一貫性」というのは、本書でも何度も登場するキーワードになっている。

最高のトレーダーは恐れない

私には一貫した勝利者とその他大勢との差が、「最高のトレーダーは恐れない」という点以外にあるとは思えない。事実、彼らは恐れない。(p.43)

これは、3章でも明確に書かれているが、本書のタイトルにある通り、「ゾーン」の状態というのは、恐怖心がない状態とも言える。ゾーンに入っている成功したトレーダーには、恐怖心がないと言える。

その一方で、それ以外のトレーダーは恐怖を感じ、ミスを犯す。

犯しがちなミスのうちの95%は、間違い、損失、機会喪失、利食い失敗に対する自分の姿勢から生じる。これらを私は、トレードの四大恐怖と呼んでいる。

健全な恐れを持つことは、合理的な考えだと思うかもしれないが、著者は、自分が恐れていることが起きてしまった場合に、恐怖心が不利に働くことを指摘している。

恐怖心が、適切な行動や、さまざまな可能性を想定することを、邪魔するというようなイメージでしょうか。

そして成功するトレーダーは、不透明な状況を目の前にしていても、トレードに適した信念と姿勢を習得しているため、自信を維持していると言います。

分析のブラックホール

できる限り多くのマーケット材料を研究してリスクを排除しようとするやり方は、分析のブラックホールと呼ばれています。

これはどれだけ優れた市場分析者になろうと、全てを予想する方法は決して習得できないし、自分が見つけきれなかった情報は絶対にあるし、考慮しきれていない情報が絶対にある、ということを意味しています。

これは、ほぼファンダメンタルズ分析のことを言っていると考えて良いと思います。つまり、ファンダメンタルズ分析をいくら完璧にやろうとも、全てを完璧に分析しきることはできないと。

その上、最初に見てきた通り、仮に完璧な分析をしたとしても、市場参加者の人間たちが合理的に動くとは限らないので、やはり、それだけで勝つことはできないということですね。

その一方で、リスクを受け入れ(恐怖心もなく)ることは、自分次第です。

マーケットの情報は過剰で、分析しきることすらできないのに対し、自分自身の心理状態は、自分で支配することができるものです。

第2章:トレードの誘惑(そして落とし穴)

投資の世界は完全に自由な世界です。

いつ買い始めるかも自由、いつ辞めるかも自由。

競馬のように、レースがスタートしたら始まりでゴールしたら終わりではなく、終わるタイミングも自分で決められる。そんな自由さが投資にはあります。しかし、だからこそ、調整や規律をもつ必要があると言われています。

自由は素晴らしい。私たちは皆、それを本能的に欲し、そのために戦い、渇望さえする。しかし、だからといって効果的に行動するだけの心的能力があるわけではない。むしろほとんど制約のない環境は、大きなダメージをもたらす可能性があるのだ。そこで求められるのは、心の調整力である。

何度も言われていることは、「規律」をもつ重要性です。それも、資金管理方法や、トレードルールだけでなく、「特別な規律を持った精神構造を確立する」というのです。

そして、これは私もすごく共感するのですが、自ら「規律を考案する」ということは、抵抗感があります。

しかし、その規則は絶対に必要だと言われます。

あたかも完全自由なユートピアを見つけたのに、誰かが自分の肩を叩いて「おい、規則を作れよ。それだけじゃない、それを我慢して続ける規律も持てよ」と言われているようなものなのだ。(p.66)

なぜなら、これは次の3章につながりますし、1章の「恐怖心がないこと」にもつながっているかと思うのですが、自らの規律があり、それに従うことが、「責任感」につながるからです。

ランダムなルールでトレードを行うことや、他人から聞いた「裏情報」に基づいてトレードをすることは、結局、「自分で責任を取りたくないから」だと著者は指摘します。

市場のせい、、、他人の間違った裏情報のせい、、、

外部に責任を転嫁する方が、非常に簡単、だと指摘します。言い訳する方が簡単です。人は簡単な方に流されます。

しかしそれでは、成長のフィードバックを得られません。

自分自身の考えで行動し、自分の下した判断にリスクを取る。そうすれば、自分のアイデアがどのように機能したか、即座にフィードバックできる。

第3章:責任を取る

ここまでの章と同じように、マーケットをいかに分析するかよりも、自分自身の心理の持ちようが重要であるとされています。

自分自身の「信念」と「姿勢」、これが、「心の環境」を形成する。

これらのキーワードは何回も出てきますね。

ゾーンとは、無心の精神状態

この章では、ゾーンという言葉の説明があります。

恐怖心がない状態は、無心の精神状態とも言える。それは多くのスポーツ選手が「ゾーン」と呼ぶ精神状態に似ている。今までにスポーツでゾーンを経験した機会があれば、完全に恐怖心のない精神状態がどのようなものであるか分かるはずだ。ただ直感的に行動し、反応する。選択肢は検討しない。結果は気にしない。悩まない。ただその瞬間に「するだけ」なのだ。やるべきことを、そのとおりにやっているのである。(p.79)

そして、興味深い解説があります。

興味深いことに、トレード経験に乏しい初心者は、たいていこの理想とする思考法に近い。(p.79)

そう。失敗経験がなく、怖いもの知らずの初心者の精神状態が、このゾーンに“近い”と言われています。

もちろん、同じではありません。その後のページで、”一貫性のレベルで大成功した人だけが経験できるような心理状態を経験しているとは言えない”ともあるので、似て非なるものではあります。

しかし、ゾーン状態をイメージするヒントにはなるかと思います。

例えば、ゾーンの境地を目指している中級者が、初めてのトレードでビギナーズラックを獲った時の記憶を思い出すことで、ゾーンのコツを掴めむヒントになるかもしれません。

そういう意味で、この記載は面白いものでした。 

初心者と、ゾーンに至った上級者は、1周回って、紙一重のような心理状態なのかもしれません。

しかし、そんな初心者も、様々な経験をする中で中級者へと進んでいきます。その過程では誰もが必ず損失を経験することになるでしょう。そこでの対応が、中級者から上級者へと進むにあたって重要なのでしょう。

損失への対応

損失を避けられないという信念を持たずにトレードしているとしたら大変である。なぜなら損失はトレードの当然の結果であり、レストランのオーナーが食料品の購入にかける費用と同じようなものだからだ。(p.83)

これは、本書の中でもトップレベルに重要な考え方の一つだと思います。自分なりに言い換えると、損失をすることは必要経費、というイメージですかね。

確率で考えなければない以上、損失を出すことは当たり前であり、だからこそ、損失を出した時に動揺もしてはならない。淡々と次のトレードに進む姿勢が必要ということですね。

そして、損失を出した後の考え方も大事です。

なぜ大多数のトレーダーが成功しないのか、その理由を簡単に説明できる。彼らはどのようにマーケットを研究すれば儲けられるかを考えている。…(中略)…ほとんどの人がこのワナに落ちる。「マーケットについて知らないことがあるから損をしてしまう。だから一貫した結果を残せないのだ」と考えてしまい、多くの心理的要因を安易に扱ってしまうのである。(p.78)

成功できないトレーダーは、心理的要因よりも、マーケット分析を重視してしまいます。

著者は、マーケット分析よりも、自身の心理環境の方が大事だという、一貫した姿勢を取っています。

例えば、以下の二人のトレーダーのうち、どちらか一人に資産運用を任せるとしたら、どちらを選ぶだろうか。一人は単純で、どう見ても二流の売買戦術だが、無意識にゆがめられたマーケット情報、躊躇、自己正当化、希望的観測、早とちりの影響を受けない心構えがある。もう一人は、驚異的な分析家だが、前者が解決している典型的な心理的弊害すべてに左右されてしまう。正しい選択は明らかだ。前者の方が比較的良い結果をもたらすであろう。

正しい姿勢は、分析や戦術よりも総体的に良い結果を生む。もちろん、両方あれば理想的だ。しかし実際には両方の必要はない。(p.78)

意識しているかいないかに関わらず、マーケットについて何か知ることが、かつて経験した苦痛を防ぎ、復讐の願望を満たし、何かを証明するのに役に立つ手段であると確信している。そのような考え方でトレードをすれば、瞬く間に敗者となるだろう。(p.94)

目線がマーケットに向かっている限り、ゾーンの境地には至れないということですね。第1章の「分析のブラックホール」とも近い話かと思います。まあ、こんな感じで、似たようなことをいろいろな表現で繰り返している一冊だと評価する人も多いですね。

そして話を戻しますが、マーケット分析が無駄だと言っているのではありません。

マーケット分析は独自の系統的方法で勝ちをつかむための手段にすぎないのに、初心者はそのことを理解せず、むしろ痛みを避ける方法、あるいは何かを証明する方法として考えている。

自分なりに言い換えると、あくまで自己抑制とか、規律のためのツールとしては、マーケット分析は大事だということですかね。そんな程度のものを、予想できるものとして過信してしまうのはいけないという感じですね。

マーケットは中立的存在

この章、そして本書の中でも肝の一つになるであろう部分です。

自分の思った通りに相場が動かず損失してしまった時、このような考え方をしてはいけないと言います。

その結果、当然のようにマーケットが与えたり取り上げたりする外部の力であると考えてしまう。しかしマーケットが中立の立場から情報を提供している事実を考えてほしい。

つまり、マーケットは自分の欲求や期待を知らないし、それを気にもしない(もちろん、自分の建玉が価格に大きな影響を持たないかぎりだが)。一方、いつでもどの買値でも売値でも、仕掛け、利食い、損切りの機会を提供している。(p.90〜91)

マーケットにしてみれば、どの瞬間も中立である。(p.91)

書いてある通りに理解をすれば、マーケットに責任転嫁をしたりマーケットと敵対関係を築いてしまったり、ということが、いかにお門違いか、ということに納得ができます。

そうではなく、すべての結果は自分が招いたもの、だと信じることが、この章のタイトルでもある「責任を取る」ということなのですね。

バブルトレーダー

著者の経験ではトレーダーは三つに分類できると言う。

  • 一貫した勝利者(10%未満)・・・ドローダウンは小さく、堅実な右肩上がり
  • 一貫した敗者(30〜40%)・・・たまに勝つが、右肩下がり
  • バブルトレーダー(40〜50%)・・・堅調に収益を重ねては、急激に落とす、ジェットコースター的循環

バブルトレーダーは、思考停止を招く自信過剰や、自己陶酔を抱き、大損害を出してしまいます。

一貫した勝利者は自信を持っていますが、自信過剰とはまた違います。

第4章:一貫性ー心理状態

この章の「一貫性」とは、自分自身の心理状態のことを表しています。

投資では、たまたま連勝することもあれば、たまたま連敗することもあります。平凡なトレーダーはそれに一喜一憂し、その時々で態度を変えてしまいます。

以下の一文は6章からの引用になってしまうが、4〜6章あたりは特につながりが強いので許してほしいです。

往々にして、トレード機会における典型的なトレーダーのリスク認識は、直近の二〜三回のトレードの結果に影響を受ける(個人差はある)。(p.157)

つまり、連勝しているときはリスクを過小評価し過信状態になり、連敗している時はリスクを過大評価し、チャンスを逃すといった具合ですね。これでは「一貫して成功を収める」どころか、スタイルが定まらないため、なかなか勝ち続けることが難しいということでしょう。

リスクを本当に受け入れる

では一貫したトレードをするためにどうするかと言うと、リスクを本当に意味で受け入れることが大事だと言います。口ではそう言っていても、心の底から受け入れられているかと言うと、難しいですね。少しでも受け入れられていない部分があると、「恐怖」に繋がります。1章でもあったように、それがミスに繋がります。

恐怖は苦痛への脅威から生まれる。そして犯したミスのうち約95%が恐怖心から生まれる。(p.116)

リスクを本当に受け入れられていれば、恐怖もないわけですね。

そして、自分の思い通りになるわけがないのに、実際にならなかった時、以下のような行動をとってしまいます。

私たちの心は、自分の欲求が満たされないときに当然感じる精神的不快さを防ぐため、自動的にその脅威となる情報を阻止するか、その情報をあいまいにする方法を探すように設計されているのだ。(p.115)

これは心理学でもよく言われる「確証バイアス」ですね。無意識のうちに自分にとって都合のよい情報ばかりを集めてしまう行動のことを言います。こうなってしまったらもう終わりです。自分の期待と違う情報を、見ようとしない行為ですから。

その一方で、一貫したトレーダーの態度はこのようなものです。

優位性を利用するとき、マーケットの動向に何かしらの制限や期待を押し付けない。つまりマーケットのしたいようにさせておく。そしてその過程でマーケットが自分の機会を定義・解釈する状況になったとき、自分の能力のベストを尽くすのだ。

この言葉から、バフェットの「投資に見逃し三振はない」に近いものを感じました。

マーケットは自分の期待通りになるわけではないのだから、自分の機会(絶好球)が来るまでは、マーケットさんの好きにさせておく、という風に考えると、通じるものを感じるのです。

そしてマーケットとの新しい関係を確立するための思考として、このように書かれています。

そしてこの新しい関係は、自分のトレードに間違いや損失の典型的な意味を連想させないし、またマーケットの動向を脅威として受け止めることから防いでくれる。苦痛の脅威が消えたとき、恐怖心もまた同時に消える。そうすれば、可能性のあるものを発見し、その発見したものに素直に対応する自由な精神状態に達するだろう。(p.122)

この「連想」が5章のキーワードになっています。これがあることで脅威が発生し、恐怖心の原因になると言われています。

第5章:認識の力学

第3章でも、「マーケットは中立」と言う話がありましたが、一貫して、マーケットの情報は単なる情報であると言う姿勢です。そして、それをどう「認識」するか、と言うことが5章のキモです。

4章からの引用になってしまうが、5章の冒頭に引用しても相応しい文章が以下です。

たしかにこれらのミスを犯す可能性は誰にでもあるが、同様に明らかなのは、こうした間違い、損失、機会喪失、利食いの失敗をどのように受け取るかは、人によって異なると言うことだ。(p.118)

誰でも損失はするが、それに対する受け取り方は、典型的トレーダーとゾーンのトレーダーでは異なると思われます。

連想の力

連想により、認識が歪められてしまうことがあります。

本書では、初めて犬を目にした子供を例に挙げています。人生で初めて犬を見た子供がいて、たまたまその犬の気性が荒く、攻撃的だった場合、その子供は「犬=怖いもの」とトラウマレベルで覚えてしまうでしょう。そして、人生二匹目の犬に出会ったとき、彼は決して犬に近づこうとしないでしょう。

例えその犬が世界一フレンドリーで、危険性のない犬だったとしても、彼は記憶の中の初めての犬と重ねてしまうでしょう。そしてこの二匹目との出会いは、彼にとって新しい性質を体験できる機会になるにも関わらず、恐ろしい危険な犬だと認識してしまうのです。

これは心理学の「投影」が影響していると言われています。

そのとき経験した不快感や心理的苦痛の度合いは、犬と初めて出会ったときに被ったトラウマの度合いと同じレベルである。

そして次に起こるのは、心理学者が「投影」と呼ぶ現象である。私はこれをもう一つの瞬間的連想と呼んでいるが、この子は自分の認識から、現状をはっきりとした疑いのない真実だと思ってしまうのである。・・・中略・・・その瞬間、彼の心は、目と耳が知覚した情報が何であれ、内部にある自分が経験した苦痛のエネルギーによって、あたかも痛みや恐怖の根源がそのとき目にした犬にあるかのように、連想してしまうのである。(p.148)

これと同じ現象が、マーケット環境と、トレーダーの心理にも現れます。

トレーダーもマーケット情報との関係から自分の恐怖心や心理的苦痛を自己形成する可能性があり、苦痛と恐怖は間違いなくその環境から生じると確信しているのではないだろうか。(p.150)

しかし、負けるトレーダーは、直近の成績によって、過信したり恐怖を(勝手に)感じしてしまうことで、シグナルに対して一貫した行動ができなくなってしまいます。

二〜三回連続でトレードに負けた最初のシナリオの場合、マーケットに機会が出現したという次のシグナルを過度に危険だと感じてしまう。自分の心が「今この瞬間」と直近のトレード経験を自動的・無意識的に関連づけているからだ。関連づけで、負けの苦痛を引き出しているのだ。(p.154)

また、たまたま最近勝っている場合は、

なぜなら「今この瞬間」と直近の三連勝に有頂天になって、過剰にプラスな、自己陶酔の心理状態を連想するからである。あたかもリスクのない機会をマーケットが提供しているかのように感じてしまう。そして自分が無理するのを正当化してしまう。(p.154)

恐怖する状態はまさに、自分の内部にある「苦痛のエネルギー」によるものですが、マーケットに原因を転嫁してしまっているような状況です。これは3章でも同じような話がありましたね。

改めて、マーケットはただ中立的な情報を発しているだけで、受け取りて側の心理状態が変わってしまうことが強調されています。

第6章:マーケットの観点

マーケットではどんなことでも起こりうるという信念を持つことが本章では書かれています。

マーケットの最も根本的な性格(それはほぼ無限の組み合わせで表現できる)

市場の値動きには、三つのフォースが存在している。

「将来のある時点で、買っているものをさらに高い値段で売れると信じているトレーダー」と「将来のある時点で、売っているものをより安い値段で買い戻せると信じているトレーダー」、「マーケットを見ながら価格が安くなるか高くなるかの判断を待っているトレーダー」である。

そして、これらの大半は、規律のない、行き当たりばったりのやり方で行動しているトレーダーと言われている。

もしこれらのフォース(本書の独特な言い方)が均衡していれば価格は均衡しますが、たった一人の気まぐれによって、どちらに動く可能性を含んでいます。

最も効率的で機能的なトレードの信念を、私たちは習得できる。それは「何事も起こり得る」と言う信念である。それが真実であるという事実はともかく、成功に必要なあらゆるほかの信念や姿勢を確立するための強固な基盤として機能するだろう。(p.175)

より重要なのは、「何事も起こり得る」と言う信念を確立することによって、自分の心を確率で考えられるように鍛錬できる点である。(p.176)

と言うことで、次の「確率」の話に進みます。

第7章:トレーダーの優位性ー確率で考える

7章は個人的にはかなり好きな章です。ギャンブルを例にして、確率について語られています。

最終的には「一貫性は確率が機能して達成されるのだ」と分かってもらえるだろう。予測できない結果を生む確率的事象から一貫した結果が生じるというと、一瞬、矛盾してるように聞こえるかもしれない。そこでこの疑問を解説するため、まずはギャンブル業界に注目してほしい。(p.177)

カジノのブラックジャックでは、カジノ側がプレーヤーに対して、約4.5%の優位性を持っていると言われます。つまり、十分な大きさの標本があれば、カジノ側は賭けられたドルのうち4.5%の利益を取れるということです。ただし、1回1回のプレーは独立しているため、結果はランダムで予測不可能です。

ここに、先ほどの引用文が矛盾しているかのように聞こえる原因があります。

理解するためには、マクロとミクロの視点で分けて考えることが重要です。

個々のプレーに注目すれば、勝ち負けの分布はランダムで予測不可能である。しかしそのプレー回数が一定数に達すれば、そこから現れるパターンは一貫し、予測不可能な統計的に信頼できる結果となって現れるのである。(p.180)

一回のトレードの結果は不確実で、独立していると言うことを、非常に丁寧に解説しています。

マクロとミクロ

表面がもう一方と対立する二層式のような信念を持ってほしい。最初の層はミクロレベルでの信念である。このレベルでは、個々のプレーの結果の不確実性を信じなければならない。・・・(中略)・・・どの一回のプレーの結果も、ほかのプレーとの関連が予測できないランダムなもの(統計的に独立したもの)となるのだ。

もう一つの層は、マクロレベルでの信念である。このレベルでは、プレーの一連の結果は比較的確実で予想できるものであると信じなければならない。(p.180)

この矛盾について記されている7章が、私は好きですね。

5つの根本的事実

そんな確率思考を持つための心の枠組みがあります。

確率で考えるためには、確率的環境の基本原理と一致する心の枠組みや心構えを確立しなければならない。トレードに適した確立的心構えは、次の五つの根本的真実からなる。(p.207)

  1. 何事も起こり得る
  2. 利益を出すためには次に何が起こるか知る必要はない。
  3. 優位性を明確にする一定の可変要素には、勝ち負けがランダムに分布する。
  4. 優位性があるとは、あることが起きる可能性がもう一つの可能性よりも比較的高いことを示しているにすぎない。
  5. マーケットのどの瞬間も唯一のものである。

ランダム性を信じること、マーケットに期待をしないこと、予想はできないことなど、本章で重要なキーワードがまとめられているかと思います。

第8章:信念の役割

7章で見た5つの根本的真実をさらに丁寧に解説した章だと考えられます。

1.何事も起こり得る

いかなる時であっても、「未知のフォース」が常に存在している。つまり、自分の優位性がプラスの結果を生むのを、この世界のたった一人のトレーダーの存在が否定することができる。

2.利益を出すためには次に何が起こるか知る必要はない。

何事も起こりうるし、そもそも未来を予測する必要がない。

トレードを単なる確率のゲームだと確信したとき、正解・不正解の概念と勝ち負けの概念は、もはや同じ意義を持たなくなる。結果として、自分の期待は可能性と調和するであろう。(p.224)

3.優位性を明確にする一定の可変要素には、勝ち負けがランダムに分布する。

これを理解していなければ、負けてしまった後で、次の優位性の出現を予期するときに、その優位性が機能するのかと疑問と恐怖を抱いてしまうことがなくなる。

4.優位性があるとは、あることが起きる可能性がもう一つの可能性よりも比較的高いことを示しているにすぎない。

これを理解できていれば、トレードに賛成や反対をする「他の」証拠を探す必要がなくなる。そうした行動は、自分の優位性への自身の無さの現れでもあり、計画に無関係な可変要素を加えていることにもなり、「一貫性」を失う。

5.マーケットのどの瞬間も唯一のものである。

全く同じマーケットは存在しません。全てのマーケット参加者が同じ人物、全て同じ条件、という瞬間は二度と存在しないのと同じです。

この5つの真実はまた、トレードのリスクを心から受け入れられる心理状態を築くものでもあります。

第9章:信念の性質

いよいよ本書の終盤であるが、「信念」が最重要キーワードです。信念とは、人生に大きな影響、衝撃を与えるものとされています。

信念は人生をどのように決定するか

  1. 環境が発する情報の認識と解釈を、私たちが信じているものと一致するように処理する。
  2. 期待を生む。留意すべきは、期待とはある将来の瞬間に投影された信念であること。自分が知らないものは期待できないのだから、期待とはある将来の瞬間に投影された自分の知っていることであると言える。
  3. 自分が実行しようと決めたことや実際の行動表現は、何であれ自分の信じていることと一致する。
  4. 最終的に、信念は自分の行動の結果についてどのように感じるか決定する。(p.242)

この4つの具体的事例として、あるテレビ番組の企画が紹介されていました。その番組では、街で「お金無料。本日限り」という看板を持った男を街に立たせるという企画です。

多くの人が通る道でしたが、彼からお金をもらったのは、バスの乗り換え代の25セントをもらった人だけでした。他の人は、全く近づこうとしませんでした。

ここには、「タダのお金など存在しない」という信念が存在していたとされています。前述の4つのフローに合わせると以下のようになります。

  1. 「タダのお金」という言葉は、環境の観点から、意図しているように認識も解釈もされなかった。
  2. 看板を持った男が正気でないに違いないと決めつけたことで、危機の予測が生じた。あるいは少なくとも用心が必要だという認識が生じた。
  3. その看板を持った男を避けるために意図的に別の進路を取るのは、その危機の予測と一致した行動である。
  4. 結果について各人はどう感じたか。個人的に「各人」を知らずに発言するのは難しいが、一般論として適当なのは「正気でない男と遭遇するのをうまく避けられた」という解放感であろう。

信念の動き

各人にはそれぞれ内から湧き出るフォース(好奇心、必要性、意欲、願望、目的、向上心)があり、物理的環境との相互影響を強制したり、その気にさせたりする。好奇心、必要性、意欲、願望、目的、向上心の対象を満たすためにとる各人の行動は、どんな環境や状況であれ、真実であると信じている信念の働き(機能)である。その真実が何であれ、以下のことを決めるであろう。

  1. 環境の観点から可能なものを認識する可能性
  2. 認識したものをどのように解釈するか
  3. 下す判断
  4. 結果への期待
  5. とる行動
  6. そして努力の結果についてどう感じるか

(p.251)

第10章:信念がトレードに及ぼす影響

信念には、次の3つの基本的な性格があると言われている。

  • 信念は現在の形を変えようとするいかなるフォースにも抵抗する。
  • すべての活動的信念が表現を求める。
  • 心の環境に存在することを意識的に認知するか否かにかかわらず、信念は機能し続ける。

これらの説明で印象的な部分は次の文章です。

確率の本質をしっかりととらえた結果、次のトレードは確率的結果を持つ一連のトレードのなかの単なるもう一つのトレードにすぎないと「知って」いる。ところが依然として次のトレードの実行を恐れているのが分かる。そうなると前述のとおり、幾つかの恐怖心が原因となったミスの影響を受けやすくなる。(p.271)

これまでに見てきた5つの根本的真実とは矛盾するような信念が自分のなかに残っていることで、「知っていて」も、できるはずのことができない、という問題が起こるのですね。

そして、次のように続きます。

思い出してほしい。恐怖の根本的原因はマーケット情報を脅威として定義し解釈してしまう可能性にある。では、マーケット情報を脅威として定義し解釈してしまう可能性の根源は何か。期待だ!マーケットが期待外れの情報を発しているとき、陰線・陽線が脅威の質(マイナスのエネルギー)を帯びているように見えてしまう。その結果、恐怖、ストレス、不安を経験する、では期待の根本的根源とは何か。それは私たちの信念である。(p.272)

前半の方で見てきたように、ミスの95%は「恐怖」から来ているとのことでした。上記では、恐怖→その原因は「脅威」→その根源は「期待」→その根源は「信念」という構図が成り立つと思います。

マーケットに対して何かを「期待」するからこそ、そうでないことが起こることへの「恐怖」が生まれる。それがミスの原因になる、ということですね。

だからこそ、「信念」は重要であり、ときには努力して変えることも必要だと。

恐怖感なく犬(マーケット)と関係を持ちたいのならば、新しい信念を作り出し、それに矛盾する信念を非活性化しなければならない。これはトレーダーとして一貫した成功を達成する秘訣である。(p.276)

第11章:トレーダー的思考法

5つの根本的真実を一点の曇りもなく受け入れ、心の環境に取り入れ、機能させる演習が本章で紹介されています。

一貫した結果を残すまでには、ミスはするのが当たり前です。次のような状態に達するまで続くと言われています。

  1. 全ての信念が自分の願望と完全に調和している
  2. 全ての信念が、環境の観点からもたらされるものと完全に同調するように構造化されている

自分の信念が環境の観点からもたらされるものと同調しなければ、ミスを犯す可能性が高くなるのは明らかで、おそらくずっと続くだろう。(p.290)

少しページが飛びますが、それが、次の文章につながるのでしょう。

一貫性への最初の原理は「私は自分の優位性を客観的に確認している」という信念である。ここでのキーワードは「客観的に」だ。客観的になるとは、いかなるマーケット情報も、苦痛あるいは自己陶酔の観点から定義、解釈、したがって認識する可能性がないという意味である。

客観的になるには、自分の期待を中立に保つ信念を利用し、常に未知のフォースを考慮しなければならない。

覚えておいてほしい、客観的になり、「今この瞬間の機会の流れ」への集中を維持するため、自分の心を特別に鍛えなければならないのだ。私たちの心には自然にこのように考える回路はない。したがって、客観的にマーケットが見られるようになるため、マーケットの観点から考える方法を習得しなければならない。マーケットにしてみれば、値動きに作用するのを待ち構えている未知のフォース(トレーダー)が常にある。したがってたとえその瞬間が自分の記憶のなかに刻まれている過去とまったく同じものに見えても、聞こえても、感じても、マーケットにしてみれば「すべての瞬間が唯一無二のものである」のだ。(p.304)

自分から期待を押し付けるのではなく、環境と同調し、期待を中立的に保つ。結局、最初の方に言われていたように、マーケットに責任転嫁しないとか、マーケットに期待を押し付けないからこそ実現できる一貫性っていうところと同じようなことを、繰り返し伝えているのだと感じます。

一貫性の信念

次の、一貫性の7つの原理は、非常にシンプルで分かりやすいです。

  1. 私は自分の優位性を客観的に確認している。
  2. 私は全てのトレードでリスクを前もって決めている。
  3. 私は完璧にリスクを受け入れている。あるいはトレードを見切ることをいとわない。
  4. 私は疑念も躊躇もなく自分の優位性に従う。
  5. 私はマーケットが可能にしてくれた勝ちトレードから利益をつかみ取る。
  6. 私はミスを犯すことへの自分の対応を継続的に監視している。
  7. 私はこうした一貫した成功の原理の絶対的必要性を理解している。したがってけっしてそれを破らない。

(p.302)

売買演習

最後に十数ページ程度で、 売買演習について書かれていますが、これまでの心理の持ち方を守ること、必要な標本の大きさ、時間枠、利食いや損切りについてなどがまとめられています。

売買演習の目的は、トレード経験を通じてカジノ業者のような客観的思考法を学ぶことです。

自分の優位性が機能するか調査会社に検証を依頼する。など、個人投資家レベルで、全て厳密に再現することは難しいが、参考にできる部分は大いにあると思います。

特に面白いと思ったのは、「ノーリスクの機会」が、本書で学んできたような「恐怖心のない」状態を感じられる練習になるという点ですね。

すでに利益の出ているトレードで、一部を利確済みで、残りは、元々の建玉位置に逆指値注文を出しているとき、後はどう動いても利益が確保されています。このような状態が「ノーリスクの機会」です。

普通の状態では損をしないというリラックスした不安のない心理状態でのトレードを、本当にどのように感じられるか経験できる。(p.317)

確かに、このような状態の時はリラックスできています。

逆に、このレベルのリラックスした心理状態を、リスクがある状態でも維持できるくらいでなければ、「ゾーン」状態に至っているとは言えないのかもしれませんね。