自分に合った手法を学ぶ『全天候型トレーダー バイ・アンド・ホールドの呪縛を解き放つ戦略』

【トム・バッソの『全天候型トレーダー』に学ぶ新しい投資戦略】

現代の不安定な金融市場において、従来の「バイ・アンド・ホールド(長期保有)」戦略が必ずしも有効とは限らなくなってきています。

そこで注目されているのが、パンローリング社から出版されたトム・バッソ著『全天候型トレーダー』です。本記事では、そのエッセンスと実践的なポイントをわかりやすく解説していきます。

トム・バッソとは何者か?

トム・バッソは、「マーケットの魔術師」シリーズでも紹介されている著名な投資家の一人です。

彼は株式や先物、通貨など多様な市場で投資を行う”マルチマーケットプレイヤー”として知られています。彼の投資スタイルの特徴は、短期的な大勝よりも、安定して平均以上のリターンを長期にわたり継続的に得ることにあります。その冷静沈着な姿勢から“ミスター冷静沈着”とも呼ばれており、精神面のコントロール術にも定評があります。

なぜ「全天候型トレーダー」が必要なのか

トム・バッソが提唱する”全天候型”とは、相場の上昇・下落・横ばいといったすべての局面に対応できるポートフォリオを構築することを意味します。


上昇相場下降相場横ばい相場合計
日数6,3481,86212,60620,816
日数(%)30.58.9560.55100

1964年1月~2021年12月の58年間の、S&P500のデータ

S&P500の過去58年のデータによれば、相場の約60%は横ばいであり、バイ・アンド・ホールド戦略だけではこの期間を有効に活用できないことがわかります。

バッソは、ただ市場の回復を祈るだけの”バイ・アンド・プレイ”状態を脱し、どんな相場環境でも利益を狙える構えが重要だと説いています。

全天候型戦略の中核:極度の分散投資

バッソの戦略の大きな柱の一つが「極度の分散投資」です。

単に複数の資産に投資するだけでなく、資産同士の相関係数(-1から1で示される動きの連動性)を意識して分散させる点が特徴です。

株式だけでは、例え世界に分散していたとしても、その分散効果は低い


ラッセル2000ナスダックS&P500FTSE100DAXCAC40韓国総合ASXNZSE日経平均
ラッセル200010.960.990.940.770.90.820.830.870.61
ナスダック0.9610.970.880.670.830.770.770.870.56
S&P5000.990.9710.940.750.900.840.850.910.56
FTSE1000.940.880.9410.820.920.870.900.860.60
DAX0.770.670.750.8210.930.850.740.610.65
CAC400.900.830.900.920.9310.910.880.800.62
韓国総合0.820.770.840.870.850.9110.910.840.45
ASX0.830.770.850.900.740.880.9110.920.48
NZSE0.870.870.910.860.610.800.840.9210.44
日経平均0.610.560.560.600.650.620.450.480.441

相関係数が低い、もしくは無相関の資産を組み合わせることで、リスクを抑えながらリターンを狙う構成が可能になります。例としては、米国株とゴールド、日本円、長期国債などが低相関資産として挙げられます。


ダウ平均ナスダック日経225米30年債日本円WTI原油天然ガスコーヒーココア砂糖小麦大豆綿花材木
ダウ平均737023-3522-15-18-6-24810-1107
ナスダック73807390-70-18-10-564142-55-42-24
日経22570805011-25-4721-46-226428-67-44-50
米30年債23735053-25-89-13-21-645033-73-69-41
日本円-3591153-35-5237-50-2570-68-60-59
220-25-25-3540-18266-638335518
WTI原油-15-70-47-89-5240181959-45-25768132
本書よし、主要指標を一部抜粋(出所:Recession Bear Market, June of 2022)

先物やオプションを使った戦術

全天候型ポートフォリオには、先物やオプションといったデリバティブ(金融派生商品)の活用も含まれます。

たとえば、相場の下落局面で利益を狙うためには「先物の売り」戦略が効果的です。

さらに、リスクとリターンを限定できるオプション戦略(例:ベアコールスプレッド、ブルプットスプレッド)も紹介されています。これらは相場が上下どちらに動いても対処可能な手段となります。

全天候型は自分に合った形で構築すべき

バッソの提唱する全天候型戦略には固定のルールや配分はなく、自分のリスク許容度や投資スタイルに合わせた設計が推奨されています。

たとえば、バイ・アンド・ホールドをコアとして維持しつつ、サテライトとして分散投資やデリバティブ戦略を組み合わせる「コア・サテライト戦略」もその一例です。

まとめ

『全天候型トレーダー』は、ただの投資手法解説本ではなく、トレードに対する考え方や精神的な在り方まで踏み込んだ投資哲学の書です。

今後の不確実な市場環境に備えるためにも、自分なりの全天候型戦略を構築することが求められます。長期保有一辺倒の時代は終わりを告げつつあり、より柔軟で多面的な投資戦略への移行が、投資家としての成長につながるはずです。