【書評】1億円は夢ではない。だからこそ残酷。橘玲・大橋弘祐『難しいことはわかりませんが、1億円貯める方法を教えてください!』

今回は、橘玲さんと大橋弘祐さんの共著『難しいことはわかりませんが、1億円貯める方法を教えてください! 普通の会社員が「億り人」になって自由に生きる超現実的ルート』を紹介します。

タイトルだけ見ると、少し夢のある本に見えるかもしれません。

普通の会社員でも1億円を貯められる。
億り人になって自由に生きられる。
経済的自由を手に入れられる。

こう聞くと、「本当にそんなことが可能なの?」と思う方も多いはずです。

しかし本書を読んで強く感じたのは、これは単なる夢物語ではないということです。むしろ、かなり現実的な本です。

そして現実的だからこそ、少し残酷でもあります。

なぜなら、本書のメッセージをかなり乱暴に要約すると、

先進国に生まれた普通の会社員でも、やり方を大きく間違えなければ1億円は目指せる。だから、できない理由を社会や親や会社のせいだけにはできない。

という話になるかまさに橘玲さんらしい、かなり強烈なメッセージです。

もちろん、私は「すべて自己責任だから弱者を切り捨てろ」と言いたいわけではありません。病気、家庭環境、介護、障害、雇用環境など、本人の努力だけではどうにもならないことは現実にあります。

ただ、それでも本書が突きつけているのは、

この資本主義社会には、知っている人だけが有利になるルールがある。

ということです。

新NISA、保険、住宅、働き方、フリーランス、マイクロ法人、税金、社会保険、インデックス投資。

これらを知っているかどうかで、人生の難易度はかなり変わります。

本書は、まさにその「資本主義社会の攻略法」を、会話形式でかなりわかりやすく教えてくれる一冊でした。

日本にはすでに「億万長者」がかなりいる

まず前提として、日本にはすでに資産1億円以上の人がかなりいます。

野村総合研究所の推計によると、2023年時点で日本の富裕層・超富裕層は合計で約165万世帯。ここでいう富裕層は純金融資産1億円以上5億円未満、超富裕層は5億円以上の世帯です。

165万世帯というと、かなり多いです。

もちろん、これは全員が株で一発当てた人でも、起業で大成功した人でもありません。

長く働いた人。
共働きで堅実に貯めた人。
不動産や株式を長期で持ち続けた人。
相続を受けた人。
事業で稼いだ人。

いろいろなルートがあります。

ただ、少なくとも言えるのは、1億円というのは「日本にほとんど存在しない幻の金額」ではないということです。

もちろん簡単ではありません。
でも、絶対に無理というほど遠い世界でもありません。

ここが本書の出発点です。

お金持ちになる方法は、結局3つしかない

本書を読んで、あらためて感じたのは、お金持ちになる方法は結局この3つに集約されるということです。

収入を増やす。
支出を減らす。
運用して増やす。

非常にシンプルです。

ただし、シンプルだからといって簡単なわけではありません。

1億円を目指すには、この3つをすべて一定水準以上でこなす必要があります。あるいは、どれか1つを極端に尖らせる必要があります。

たとえば、ものすごく高収入なら、多少支出が多くても1億円に届くかもしれません。

逆に、普通の収入でも、共働きで支出を抑え、若いうちから長期投資を続ければ、かなり現実味は出てきます。

また、投資で非常に高いリターンを出せる人なら、入金力がそこまで高くなくても大きな資産を作れる可能性があります。

ただ、普通の会社員にとって再現性が高いのは、収入を少しずつ上げる。大きな固定費を抑える。新NISAなどで長期運用する。この組み合わせだと思います。

支出削減と投資には「共通解」がある

この3つの中で、比較的やることが決まっているのは、支出削減と投資です。

たとえば支出削減であれば、重要なのは細かい節約よりも大きな固定費です。

保険。
住宅。
車。
通信費。
サブスク。
教育費。
税金や社会保険。

こういった大きな支出を放置したまま、毎日10円、20円を節約しても、なかなか人生は変わりません。

本書でも、保険やマイホームについてかなり踏み込んだ話が出てきます。

特に保険については、橘玲さんらしいかなり刺激的な表現で語られています。保険は安心を買うものではありますが、必要以上に入りすぎると、長期的には大きな固定費になります。

もちろん、保険がすべて不要ということではありません。

  • 小さい子どもがいる家庭の死亡保障。
  • 自営業者のリスク対策。
  • 火災保険や自動車保険。
  • 高額な損害に備える保険。

こういったものは必要になる場合があります。

ただし、「なんとなく不安だから」「営業担当者に勧められたから」「みんな入っているから」という理由で入りすぎているなら、一度見直す価値はあります。

投資についても同じです。

普通の人が資産形成をするなら、基本は長期・分散・低コストのインデックス投資です。

  • 新NISAを活用し、世界株式や米国株式などに長期で積み立てる。
  • 短期の値動きに振り回されず、できるだけ長く市場に居続ける。
  • 高い手数料の商品や、よくわからないテーマ型商品に飛びつかない。

もちろん、個別株投資で大きく増やす人もいます。私自身も個別株は面白いと思っています。

ただ、再現性という意味では、普通の人にとっての土台は、新NISAでのインデックス投資だと思います。

仮に1,800万円を年率5%で35年運用できれば、税引き前の単純計算では約9,900万円になります。もちろん、これは将来のリターンを保証するものではありません。

しかし、新NISAの枠を埋めることができれば、1億円というゴールはかなり現実味を帯びてきます。

つまり、支出削減と投資については、ある程度「こうした方がいい」という共通解があります。

日本人の考える「豊か」は贅沢かも

また、日本人が想像してしまう「豊か」な生活は、世界的にみても要求水準が高すぎるのかもしれないと思いました。

どうしても豊かな生活、というと、毎年ヨーロッパ旅行にいくような夢のような水準を想像しますが、それはやりすぎだと。1億あっても2億あっても、いつまでも不安が解消されないのは当たり前ですよね。

一番難しいのは「収入を増やすこと」

お金持ちになる3つの方法のうち、一番難しいのは、やはり収入を増やすことだと思います。

なぜなら、支出削減やインデックス投資にはある程度の共通解がありますが、収入アップには万人共通の正解がないからです。

「転職しましょう」
「副業しましょう」
「フリーランスになりましょう」
「マイクロ法人を作りましょう」

こう言うのは簡単です。

しかし実際には、マイクロ法人を作る前に、まず売上を立てる必要があります。

フリーランスとして節税する前に、そもそもフリーランスとして稼げる能力が必要です。

副業を始めるにしても、何をやればいいのか分からない人が多いはずです。

ここが本当に難しいところです。

サラリーマンとして働いていると、毎月の給料は安定しています。しかしその一方で、税金や社会保険料はかなり重く、上司や部下は選べず、配属ガチャもあり、雑用や会議に時間を取られ、本当に磨きたい専門性がなかなか磨けないこともあります。

会社の中では評価されるけれど、外に出たときに通用するスキルが身についていない。

これは多くの会社員にとって、かなりリアルな悩みだと思います。

だからこそ、本書で一番面白かったのは、単に「フリーエージェントになれ」「マイクロ法人を作れ」と言うだけではなく、

では、どうやって自分の稼ぐ力を作るのか?

という部分にヒントがあったことです。

収入を増やす鍵は「ニッチ市場」と「自分の武器」

本書で特に印象的だったのが、アメリカの統計学者ネイト・シルバー氏の話です。

彼は統計学という武器を持っていました。

最初はオンラインポーカーの世界で、統計を使って勝率を分析しました。当時、その分野で統計を本格的に駆使する人は少なく、彼にとってはブルーオーシャンでした。

しかし、やがて競争環境が変わり、そのやり方だけでは勝ち続けるのが難しくなります。

そこで次に彼が向かったのが、メジャーリーグの世界でした。野球の選手評価やチーム編成に統計分析を持ち込むことで、新しい価値を生み出しました。

さらにその後、選挙予測の世界に進みます。当時は政治評論家やジャーナリストが主観的に語ることが多かった選挙予測に、統計分析を持ち込み、大きな注目を集めました。

ここで重要なのは、彼が毎回まったく別の才能を発明したわけではないということです。

使っている武器は「統計」です。

ただし、その武器を持ち込む市場を変えている。それぞれの分野は違いますが、「まだ統計が十分に使われていない場所」に自分の武器を持ち込んでいるわけです。

これが非常に面白いと思いました。

つまり、収入を増やすヒントは、

自分の武器を見つけること。
その武器がまだ十分に使われていないニッチ市場を探すこと。

この2つにあります。

いきなり天才的な武器は必要ない

ここまで聞くと、「でも自分には統計学みたいなかっこいい武器はない」と思う方もいるかもしれません。

しかし、本書を読んで感じたのは、最初からすごい才能が必要なわけではないということです。

むしろ大事なのは、

過去に褒められたことを探すこと。

だと思います。

自分では大したことないと思っていたのに、人から褒められたこと。
なぜか頼まれること。
周りより少しだけ上手くできること。
苦ではないのに、人には感謝されること。

そこに、自分の武器の原型がある可能性があります。

大橋弘祐さん自身の体験談も、まさにこの流れでした。

大手通信会社で働いていたとき、社内報のような文章を書く機会があり、それを上司に非常に褒められたそうです。

その時点では、まさか自分が作家や編集者になるとは思っていなかったかもしれません。

しかし、後から振り返れば、そこに自分の武器のヒントがあったわけです。

これは非常に現実的な話だと思います。

「好きなことを仕事にしよう」と言われると、多くの人は悩みます。

そもそも好きなことが分からない。
好きだけど稼げる気がしない。
趣味を仕事にしたら嫌いになりそう。

こういう人は多いと思います。

でも、「褒められたこと」なら、少し探しやすい。

そして、最初はそれほど好きではなくても、褒められて、頼られて、上達していくうちに、だんだん好きになることもあります。

情熱が先にあるとは限りません。

  • 得意なことを続ける。
  • 少しずつ上達する。
  • 人から感謝される。
  • その結果、情熱が後からついてくる。

この順番もあると思います。

普通の会社員が狙うべきは「巨大市場のど真ん中」ではない

収入を増やすと聞くと、多くの人は大きな市場を狙おうとします。もちろん、大きな市場には大きなお金があります。

しかし、大きな市場には強い競合もたくさんいます。

資本力のある会社。
経験豊富なプロ。
知名度のあるインフルエンサー。
広告費を大量に使える企業。

普通の個人がいきなり巨大市場のど真ん中で戦うのは、かなり厳しいです。

だからこそ、狙うべきはニッチ市場です。ただし、単に小さい市場を選べばいいわけではありません。

大事なのは、

自分の武器が効くニッチ市場を探すこと。

です。

たとえば、文章が得意なら、単に「文章を書く」だけでは競争が激しいです。

でも、特定の業界に詳しい。
難しい話を初心者向けに翻訳できる。
投資や税金の話をかみ砕ける。
地方企業のWeb集客に詳しい。
教育や子育ての実体験がある。

こうした別の要素と組み合わせると、だんだん独自のポジションが見えてきます。

これは私のYouTubeチャンネルにも言えることかもしれません。投資系チャンネルは多いですが、その中で投資本に特化しているチャンネルはあまりない。そして、長く継続すれば、個人が1億円を狙う程度なら稼ぐ、小さな市場。

投資やビジネス、キャリアでも、同じような発想が必要なのかもしれません。

1億円を作るには、投資以前の対策も必要

投資系の発信をしていると、どうしても「どの銘柄を買えばいいか」「S&P500かオルカンか」「日本株か米国株か」という話になりがちです。

もちろん、それも大事です。

しかし、1億円を本気で目指すなら、投資だけでは足りないことも多いです。

毎月1万円を積み立てるのと、毎月10万円を積み立てるのでは、将来の資産額はまったく違います。

つまり、投資利回りも大事ですが、入金力も非常に大事です。

その入金力を決めるのが、収入と支出です。

収入を増やす。
支出を抑える。
余ったお金を運用する。

この3つがつながって初めて、資産形成は加速します。どれか1つだけでは弱いです。

節約だけだと限界があります。
投資だけだと元本が足りません。
収入が増えても使い切ってしまえば資産は残りません。

だからこそ、本書は単なる投資本ではなく、人生全体の設計を考える本だと感じました。