本記事では、『50万円を50億円に増やした投資家の父から娘への教え』をご紹介します。
著者は医師でありながら個人投資家として成功を収めた”たーちゃん”氏。本書は、彼ががんを患ったことをきっかけに、娘に向けて自らの投資哲学を語った一冊です。
彼の投資スタイルは、バリュー株投資の真髄を学べる内容になっています。
医師兼個人投資家への道
著者は小学校1年生で6年生までの漢字を全て覚えてしまうなど、幼少期から非凡な才能を持っていた人物です。
医師国家試験に一度落ちたことをきっかけに、本格的に投資の世界へ興味を持ち始めました。
初めての投資は、自身がしていたゲームのドリームキャストをきっかけに「セガサミーホールディングス」株へ50万円を集中投資。これが3倍になったことを皮切りに、彼の投資人生が始まります。
医師としての収入と集中投資の戦略
医師という高収入の職業を活かし、彼は若くして600万円を金鉱株に投資。多忙な研修医時代に、「2年放置しても大丈夫」を理由に投資して、見事大化け株をつかんでいるから驚きです。
2年間の放置後に10倍以上のリターンを得て9000万円へと資産を伸ばします。
その後も集中投資の戦略で次々と成果を上げ、20代で資産1億円、30代で6億円を達成。結婚や子育てを優先する時期には投資から離れますが、再び復帰し、「名村造船所」など造船業界への投資で資産を一気に50億円まで伸ばしました。
シクリカル・バリュー株投資とは

本書の中心となる投資戦略が”シクリカル・バリュー株投資”です。ただしこれは、3段階あるバリュー株投資の中でも最も何度の高い手法です。
- ベースの「資産力」から割安株を買う資産バリュー株投資
- 「稼ぐ力」から割安株を買う収益バリュー株投資
- 「景気循環」の割安局面を狙うシクリカルバリュー株投資
シクリカルバリュー株投資は、景気の循環(サイクル)に着目し、業績が悪化して割安となっている企業に投資し、景気回復と共に株価が上昇するタイミングで売却するという手法です。特に、2年くらい「赤字」の銘柄が狙い目ということで、素人が簡単に手を出せる手法ではなく、難易度は高めです。
著者は資産バリュー株、収益バリュー株の考え方を土台とし、最終的にこのシクリカル型で利益の8割以上を稼ぎ出してきました。
バリュー株初心者は、いきなり赤字銘柄などを狙うシクリカルバリューよりも、「資産バリュー株」から入ったほうが良さそうです。「資産バリュー株」を得意とする個人投資家といえば、かぶ1000さんの本も勉強になりました。
景気サイクルを見極める力
シクリカル株投資で重要なのが、現在の景気サイクルがどの位置にあるかを見極めることです。
本書では内閣府が公表する”景気基準日付”が一つの参考材料になるとのことでした。私が調べてみたところ(2025年7月時点で)、拡張期の後半に入っている現在、景気後退期に向けて備えることが重要だと説いています。
景気基準日付

内閣府の景気基準日付によれば、31ヶ月で一巡する時もあれば、90ヶ月(2012.12~2020.5)の時もあります。平均は54ヶ月くらいです。拡張期が長く(平均38ヶ月)、後退が短い(平均15ヶ月)傾向にあります。コツコツドカンは基本ですね。

2020年5月に始まった拡張期はすでに5年目です。過去のサイクルからは、すでに「拡張期の後半」ではないかと考えられます。ちなみに過去最長の拡張期は73ヶ月(2002.1~2008.2)でした。6年以上続いたこともあったのですね。
あと1年くらい続けば、過去最長の拡張期となります。
ただし細かく見ていけば、セクターごとにサイクルが異なる点も考慮が必要です。
バリュエーション指標としてのPSR
今回、特に勉強になった点の一つとして、通常、株の割安度を測る指標としてPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が用いられますが、シクリカル株では赤字が多くこれらの指標が使いづらくなるため、PSR(株価売上高倍率)を参考にするという点です。
PSRが低ければ低いほど、将来的なリターンが高くなる傾向があるとされております。過去のレンジと比較することで割安度を判断できます。
投資スタイルの哲学と教訓
著者はレバレッジ(信用取引)を基本的に使わず、現物の「集中」投資に徹してきました。これらはバフェット流の投資哲学と共通していると感じました。
とは言っても、シクリカル株の多くは「コモディティ株」であり、バフェットはそのような銘柄を買いませんので、対象とする銘柄は全く異なっています。
また、彼は他人のSNSやニュースの煽りには乗らず、自らの調査と分析を重視しています。加えて、働くことの意味や人とのつながりも投資以上に重要だと語り、FIRE(早期リタイア)経験からも多くの学びを得ています。
投資はライフワーク
著者は50億円の資産を持ちながらも、ブランド品や高級車には興味を示さず、質素な生活を送り続けています。
それでも株を続けるのは「投資が好きだから」。本書は単なる資産運用のノウハウだけでなく、生き方としての投資のあり方を教えてくれる一冊です。
個人投資家として一歩踏み出したい方、そして投資を通じて人生を豊かにしたい方にとって、学びの多い内容となっています。