インフレ時代にこそ読みたい!本書が投資家にもたらす価値
ここ数年で世界でインフレが急速に進み始めています。そしてようやく日本にもインフレの波が訪れています。
ジェレミー・シーゲル博士の最新版『株式投資 第6版』は、そんなインフレ時代に資産を守りながら増やしたい個人投資家にとって最適のバイブルです。
本書は220年分の金融データを2021年まで拡張し、株式が他資産を大きく圧倒する長期リターンを提供してきた事実を確認します。配当再投資を含む実質年率6.9%という驚異的成長は、1ドルを233万ドルへと膨らませました。
過去版で指摘されたインフレ耐性や生存者バイアスへの批判にも丁寧に反証を与え、理論と実証を橋渡ししています。ESG投資やデジタル資産の台頭にも言及し、現代の悩みにも即応。市場サイクル別のリスクプレミアム推移を図表で示すなど、学術的裏付けと実践的ヒントを両立させた構成が魅力です。
株式はインフレに勝てる――実質リターンの核心
…米国が過去220年の間に経験したインフレは、ほぼ全て第二次世界大戦後に発生している。しかし、インフレによって株式の実質リターンが低下することはなかった。これは、株式が実物資産であり、長期的にはインフレ率と同じ速度で上昇するため、長期的な株式の実質リターンが物価水準の変動に悪影響を受けないためである。
株式がインフレに強い最大の理由は、企業収益が物価と連動して伸びやすい点にあります。第二次世界大戦後の急激なインフレ局面でも株価は名目ベースで押し上げられ、実質ベースで見てもマイナスを回避しました。
配当込みのトータルリターンで見ると、投資家はインカム(配当)とキャピタルゲインの両方から恩恵を受けます。短期では政策金利や景気循環に左右されるものの、10年以上の保有期間があれば物価変動を吸収し、購買力を保ちながら資産を増やすことが可能です。さらに、配当には軽減税率が適用される国が多く、手取り利回りが高くなる点も見逃せません。
生存者バイアス批判への回答――国際比較で検証
「米国株の成功は単なる生存者バイアスではないか」という批判に対し、本書はロンドン・ビジネススクールのディムソン教授らが行った16 カ国比較を紹介します。結果は明快で、株式が債券を上回るパフォーマンスは米国特有ではなく、長期データを取れるすべての国で再現されました。
株式が長期債や短期債を上回るという米国の経験は、調査した16カ国すべてで見られた。……いずれの国でも株式が債券を上回るパフォーマンスを達成している。101年間通してみても、株式のパフォーマンスが最悪だった年に、株式よりも良いリターンをもたらした長期債市場は2カ国だけ、短期債市場は1カ国だけであった。
もちろん東ドイツ株が無価値化した例や、ロシア・中国で市場が閉鎖された歴史もあります。
しかし同時期には、国債のデフォルトや通貨改革が繰り返され、相対的に株式が価値を維持しやすかった事実も示されています。指数の入れ替えにより市場全体が常に健全性を保つ「自己修復力」を備える点も、他資産にはない強みと言えるでしょう。
株式 VS 債券――超長期で勝率九割超
1982~2011年の米金利急低下期など、債券が株式をアウトパフォームした30 年スパンは確かに存在します。利息収入とキャピタルゲインが同時に得られた「黄金期」で、年率リターンは債券11.0%、株式10.98%と僅差でした。
過去数十年にわたる国債利回りの急激な低下により、1982年1月1日から2011年末までの30年間で、長期債のリターン11.03%が株式の10.98%を上回ったのである。この衝撃的な出来事により、一部の研究者は、株式のリターンが債券のリターンを上回ることはもはや期待できない、と結論付けた。
しかし本書の統計によれば、30 年間の運用で株式が債券を上回った確率は91.6%、1871年以降のデータでは99.3%です。
今後同規模の債券優位局面を再現するには、再び二桁台の長期金利がゼロ近傍まで急低下する必要があります。金利サイクルの現状を踏まえれば、その再現性は極めて低いと判断できます。
加えて、債券利息は高い総合課税を受けやすいのに対し、株式配当の税負担は相対的に軽く、手取り差はさらに拡大します。
国際分散投資がもたらす安定性
シーゲル博士は改訂版で、米国本社企業だけに集中するリスクを明確に指摘しています。S&P 500企業の売上高に占める海外比率は41%に達しており、本社所在地より製造・販売拠点の広がりが企業価値に影響を及ぼします。
世界各地に分散したポートフォリオを持つ投資家だけが、最も低いリスクで最高のリターンを得ることができるだろう。
世界株式(いわゆる「オルカン」)を保有すれば、セクター・通貨・政策リスクを同時に分散でき、単一市場への依存を避けられます。「アルファベット順でA~L銘柄だけに投資する人はいない」という喩えが示す通り、米国株100%も集中投資である点を忘れてはなりません。
まとめと行動提案
本書は「迷ったら株式へ長期分散せよ」という結論を、膨大なデータと反対意見の検証で裏づけています。インフレ耐性・高リターン・リスク分散の三拍子がそろう戦略は、個人投資家が不確実な未来に立ち向かう強力なツールになるでしょう。
推奨される行動
- 投資目的・期間を再点検し、長期目線で株式比率を最適化する。
- 信託報酬の低いインデックスファンドを使い、世界株式へ広く分散する。
- 四半期ごとの騰落に振り回されず、年間リバランスで冷静に配分を調整する。
市場から離れる最大のリスクは暴落ではなく、上昇局面の取り逃しだとシーゲル博士は警告します。
相場が不安定な今こそ、積立投資を継続し、時間を味方につけましょう。
『歴史は韻を踏むが同じ詩を繰り返さない』――統計と実践知を武器に、次の10年・20年を自信を持って歩んでいたいですね。