本記事でご紹介するのは、30年にわたり50名以上の伝説的な投資家にインタビューを行い、彼らの成功哲学をまとめた一冊です。この本には、ウォーレン・バフェットをはじめ、ピーター・リンチに師事した投資家たちの深い洞察が詰まっています。
特に今回の記事では、ピーター・リンチの教えを実践したウィル・ダノフとジェフ・ビニクの投資哲学に焦点を当てます。
彼らは、数ある情報の中から「本当に重要なこと」だけに集中するという、一見シンプルながらも実行が難しい戦略を貫くことで、長年にわたって市場を上回るパフォーマンスを実現してきました。
ウィル・ダノフの投資哲学:株価は利益を追いかける
ウィル・ダノフは、1990年からフィデリティ・コントラファンドの運用を開始し、アメリカ最大級のファンドへと成長させた名ファンドマネージャーです。
彼の投資の根底にあるのは、「株価は利益を追いかける」という極めてシンプルな考え方です。
スターバックスへの投資事例がそれを象徴しています。同社のEPS(1株当たり利益)は20年間で年27.45%増加し、株価も年21.32%の上昇を記録しました。一方、同時期のS&P500は年8.4%の利益成長、株価上昇は年7.9%にとどまります。
このように、利益がしっかりと成長している企業に投資を続けることで、長期的に高いリターンを実現できるというのが彼の投資の本質です。この手法は、師であるピーター・リンチの理論に忠実であり、「収益の伸びが株価の伸びに連動する」という基本原則を証明するものです。
ダノフが重視する「本当に大事なこと」だけに集中する姿勢
ダノフのもう一つの強みは、「複雑なものを受け入れず、重要な数点に集中する」能力です。
彼の友人であり、伝説的な投資家ビル・ミラーは、「細かい財務モデルを作るよりも、企業にとって最も重要な3~4点の問題に集中すべきだ」と語っています。
これは情報過多の現代において非常に示唆的です。投資において重要なのは、複雑な分析よりも、本質を見抜く力なのです。ダノフが投資先として選んだのは、Microsoft、Amazon、Alphabet(Google)、スターバックスなどの名だたる成長企業ですが、それも「利益成長に集中する」という姿勢の賜物です。
特にGoogleへの投資では、2004年にライバル企業から得た情報をもとに素早く動き、IPO時に多くの投資家が手を出さなかった中で大きなポジションを確保。その裏には、ライバル企業の言葉があったと言われます。
“毎年数百社の経営陣と会うダノフは、二〇〇四年四月に「死に体」だったドットコム企業〈アスク・ジーブス〉と面会したときのメモを見せてくれた。経営陣は自分たちを崩壊寸前まで追いこんできた無敵のスタートアップの名を明かしている──グーグルだと。このときだった、とダノフは言う。「このとき初めて、グーグルが特別な企業だと気がついた」。”
その後の成長を捉えた事例は、まさにシンプルでありながら深い洞察の賜物と言えるでしょう。
“必要なのは、シンプルで一貫性があり、長期にわたって機能する投資戦略だ。内容を理解し、いいときだけでなく悪いときも忠実に守っていけるほど強く信じられる戦略をそれぞれがもつべきなのだ。”
ジェフ・ビニクの2つの秘訣:成長と割安の両立
続いて紹介するのが、フィデリティ・マゼラン・ファンドをわずか33歳で任されたジェフ・ビニクです。彼は12年間で平均32%という驚異的なリターンを記録した、まさにピーター・リンチの後継者と言える存在です。
彼の投資哲学は以下の2点に集約されます。
- 利益成長が良好で、なおかつ割安な企業に投資すること
- 徹底した情報収集と分析で優良企業を見極めること
成長と割安の両立
具体的な事例として、年20%のEPS成長をしながらPER(株価収益率)が12倍というレストラン株に注目しました。これは、ピーター・リンチが提唱したPEGレシオ(PER ÷ 成長率)に近い指標であり、「PERが成長率の半分以下であれば非常に魅力的」という考え方に基づいています。
『ピーター・リンチの株で勝つ』にも、参考になる言葉が書かれています。
配当を考慮した利益の成長率の、やや複雑な算出方法もある。
まず成長率を算出し(12%とする)それに配当利回り(3%)を足し、それをPER(10倍)で割れば、(12+3)÷ 10 =1.5 となる。
この答えが1以下なら見込み薄だし、1.5ならまずまずだろう。しかし本当に探しているのは2倍以上である。
つまりPEGレシオ(PER/EPS成長率)の逆数を取っているようです。PERよりもPEGレシオが上回っていればいいという考え方はPEGレシオと同じですね。
情報量と行動力が投資パフォーマンスを左右する
ビニクのもう一つの秘訣は、「ガムシャラに働く」ことです。
1日24時間をフル活用し、わずかに空いた時間にも企業訪問を差し込むほどのストイックさを持ち合わせています。
たとえば、スケジュールの空白を埋めるために訪れたテスラでは、偶然イーロン・マスクに出会い、その場で強い印象を受けて即断で投資を決定。これが数百倍のリターンにつながりました。
“リンチは訪問する企業をわざわざ「ひとつ」増やした。ダノフは「ひとつ」空いていた時間帯を埋めることにこだわった。ビニクは子どもたちが寝たあとに読み物のための「二、三時間」を捻出した。”
これは偶然ではなく、情報収集に貪欲で、行動力があるからこそ得られた「必然の幸運」だと言えるでしょう。
成功する投資家の共通点とは?
ウィル・ダノフとジェフ・ビニクに共通するのは、シンプルで一貫性のある投資戦略を持ち、悪い時期でも信念を貫く姿勢です。複雑な分析よりも、本当に重要なポイントに集中することで、情報に振り回されず、長期的に成果を出し続けています。
これらの哲学は、プロの投資家だけでなく、個人投資家にとっても非常に有用です。特に初心者は、情報に惑わされやすく、ブレがちですが、今回紹介したような「シンプルにして強力な原則」を持つことで、ぶれない投資が可能になります。
ピーター・リンチの教えは、時代を超えて通用する普遍的なものです。まずは「利益成長」と「割安性」に注目し、自分なりの投資戦略を一貫して貫くことから始めてみてはいかがでしょうか。